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Caféyakhtarが紡ぐ物語 第11話【後編】巡り合わせ

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「医者は言いました。22週目を迎えれば、赤ちゃんが生きられる可能性があると」

その言葉に一瞬、希望の光を見た。あと少し頑張れば、この手に抱けるのだと。

「でも、羊水が止まらないままでは赤ちゃんが苦しい。私もずっとベッドで絶対安静…」

それでも構わない。寝たきりになってもいい、と心から思った。その瞬間、医師はさらに言葉を重ねた。

「超未熟児で生まれれば、脳性まひや視力・聴力障害、知的障害を持つ可能性が高い」と。

全身から力が抜けていった。健康な子どもが生まれると、無条件に信じていたからだ。目に映る赤ちゃんはみな可愛く、笑っていた。なぜ自分たちだけが――。

「障害を持つ子を一生育てることができるのか…親や世間にどう言えばいいのか…。私も夫も、それでも育てる…と言う言葉を口にできませんでした」

時折テレビで見た「障害のある子と生きる家族」。偉いなと思う一方で、自分には無理だとどこかで思っていた。そして、それはすべて他人事だった。「可哀想」「でも、偉いね。」と言う言葉は、時に残酷だ。その現実が今、胸を締め付ける。

「罰が当たったんです。無意識に、私は差別していたのかもしれない」

やがて夫が言った。「残酷なようだけど、今回は諦めよう」と。私は心の中でうなずいていたのに、被害者のように泣き叫んだ。夫に“決断する役”を押し付けたのだ。

空っぽになったお腹が疼く。女性は前かがみになり、カウンターに額を付けた。

その頭上から、静かな声が降りてきた。

「天国で赤ちゃんたちが、自分で親を選んで生まれてくる…そんな話を聞いたことがあります」

女性は涙を流しながら顔を上げる。

「神様は未来を告げるけれど、それでもいいと願った赤ちゃんは、その人たちの子どもになれるんだそうです」

「じゃあ…私たちを選んでくれたのに、私は…」

嗚咽に言葉が続かない。マスターはただ静かに見守っていた。

「きっと赤ちゃんは神様の元に戻って、もう一度挑戦させてくださいって頼んでいるかもしれません」

女性は空っぽのお腹を抱え、考え込む。その時、気づけば空がすぐ隣に来て、そっと手をお腹に当てていた。

驚いて彼を見た瞬間、空は何事もなかったように手を引き、元のハンギングチェアに戻っていった。

「また、帰ってきてくれる…」女性はそうつぶやきながらお腹をさする。

「トルココーヒーは、飲み終わったら占いができます。やってみますか?」

普段なら笑って断る彼女も「ぜひ」と答えた。カップを伏せ、ソーサーを重ねる。沈黙ののち、マスターがひとこと告げる。

「巡り合わせ」

女性は「巡り合わせ…」と呟き、泣き笑いになる。
未来は誰にもわからない。ただ赤ちゃんと神様だけが知っている。
それでも――空っぽのお腹が、ほんの少しだけ愛おしく思えた。

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