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Caféyakhtarが紡ぐ物語 第12話 空と涼子の再会編【前編】

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空がCafé yakhtarに来てから、どれくらいの時間が経ったのだろう。 もうずっとここにいるような気もするし、つい昨日からいるような気もする。

今日みたいに冷たい雨が降る日は、どうしても心がざわめく。 胸の奥に重い石を飲み込んでしまったように、気持ちが沈むのだ。

その理由ははっきりとは分からない。けれど、雨が降ると、辛くて寂しい気持ちと、どこか暖かい懐かしい気持ち、そして漠とした寂寥感で心が千々に乱れるのだった。

空は、雨音から逃れるように体を小さく丸め、まるでそうすればすべての痛みから守られると信じているかのように身を縮めていた。ただ、雨音に包まれると、 悲しさ、寂しさ、そして不思議なほど温かい懐かしさが一度に押し寄せてくる。

どれくらいそうしていただろうか。雨音と静けさに包まれたCaféに、 カラン、とカウベルの音が響き、扉が開く。
足音が軽やかに店内へと入ってくる。

そのリズムは、どこか急いでいるようで、けれど楽しげで、まるで「帰るのが嬉しい」と言っているかのような足音。 その音は、かつての空の心をいつも幸せでいっぱいにしてくれた音だった。空の胸は懐かしさでいっぱいになる。

女性の声が震えて響く。
「ここに……空がいるって聞いたんです!」

その瞬間、空が顔を上げて振り返ると、そこには空が待ち続けていた人がいた。

「……!」

思わず顔を上げた空は、体をそらした。 空の目に映ったのは、見覚えのある空色のワンピースを着た華奢な女性だった。 息を切らしながら、サラサラの髪を無造作にまとめた姿は、 空の記憶に深く刻まれた懐かしい人と寸分違わなかった。

そして、Caféの扉の横にあるハンキングチェアを見た女性は「……空!」とつぶやいて、駆け寄ってきた。 空は驚いて目を見開いたが、その柔らかく温かい感触に包まれた瞬間、 まるで毎日のようにそうしていたかのように、すっぽりと彼女の腕に収まった。

「……ママ? ……ママ……? ……ママだ!」

最初は疑うように小さな声だった。 それがだんだん大きくなり、最後には女性の胸に顔をすり寄せながら 嬉しそうに繰り返していた。

「ごめんね……ごめんね。もう二度と一人にしないって約束したのに。 寂しい思いをさせないって言ってたのに……。辛かったよね、寂しかったよね……」

女性の目からは涙が溢れ、空を抱きしめる腕は震えていた。 空は声にならない声で「にゃ」と鳴き、ただその腕に全身を預けた。 それは失われていた時を取り戻すように、互いの温もりを確かめ合う時間だった。

やがて、少し落ち着きを取り戻した女性は、マスターに顔を向けた。 涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔のまま、けれど笑顔を浮かべて言った。

「すみません、突然。私、田島涼子と申します。……空の飼い主です」

マスターは静かにうなずき、温かな眼差しを向けながら一言。 「どうぞ、おかけください」

涼子と名乗った女性は、空を抱いたまま素直にカウンター席に腰を下ろした。 その仕草は、どこか少女のように見えた。 こうして、長い時を超えて、空と涼子の再会が始まったのだった。

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