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Café yakhtarが紡ぐ物語 第12話 【中編】 空と涼子の再会

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カウンターの席に着き、アイスコーヒーを注文した涼子は、しばらく黙って窓の外を見つめていた。雨音は依然として続いているが、先程よりは小さくなり、少し薄日も差してきている。

そんな暗い雲の輪郭が、雲の後ろに隠れている太陽のおかげで金色に縁取られている。

淡い空色と溶け合うように、そのまなざしは遠い記憶の中へ沈んでいった。

「兄とは……ずっと一緒にいたんです」

唐突に涼子から落ちる言葉は、まるで胸の奥から零れるようだった。
両親を突然の事故で失い、幼いふたりは養護施設で肩を寄せ合って眠った。涼子にとって兄は、ただの家族ではなく、生きていく支えそのものだった。

「でも、ある日……私だけが、裕福な家庭に引き取られていきました」

言葉を区切るように、グラスの中で氷が小さく鳴った。
カラン――。その澄んだ音が、静かな店内に響く。重苦しい空気をわずかに揺らすが、すぐにむせび泣くような異国のBGMがそれを包み込む。

「あのとき、兄はどんな思いで見送ってくれたのか……考えると、今でも胸が痛むんです」

語りながら、涼子の指先は無意識にひざの上にいる空の毛並みに触れていた。やさしく撫でる仕草は、まるでその温もりに兄の面影を探しているようだった。

「裕福な家での暮らしは、贅沢ではあったけれど……幸せじゃなかった。もちろん、引き取って育ててくれた感謝の気持ちはあります。でも、厳格で冷たい家で、気づけば養父母とも疎遠になっていました」

涼子の声は震えていた。
その背中を、言葉もなく支えるようにマスターが微かに微笑む。暖かく控えめなその表情は、涼子が心の奥を吐き出すのをただ静かに後押ししていた。

「最近になって、やっと兄の居場所がわかったんです」
「でも……連絡を取る勇気がなくて。電話だと、拒絶されるのが怖い。だから――」

涼子は小さく息を吸い、言葉をつなぐ。
「手紙なら、返事が来なくても……“届かなかったのかもしれない”って、自分に言い訳できるから」

その告白と同時に、涼子の目から涙が零れ落ちた。
窓の外の空は少しづつ明るくなり、雨が洗い流した清涼な空気を街に運んでいた。

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