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Café yakharが紡ぐ物語 第8話「孤独と友情」後編

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吉田君が出来上がったトルココーヒーの上澄みを見つめていると、再びカウベルが元気よく鳴った。
一陣の風のように、快活な声が店に飛び込んでくる。

「吉田!ここにいたのか。探したぞ!…ってか何このカフェ、雰囲気すげぇな」

現れたのは友人の岡本君だった。彼は吉田君の隣に腰を下ろし、早口でまくしたてる。
「顧問に聞いてびっくりしたよ。退部届出したんだって?あんなに好きだったのに、どうしたんだよ」

「…別に」
曖昧に答える吉田君。だが岡本君は食い下がる。

「お前んちの近くに2組の河合って女子いるだろ?あいつから聞いたんだ。お前のばあちゃん、少しボケちゃってるんだろ?」

胸が痛む。図星だった。だが言葉にできない。
岡本君は構わず続ける。

「実はな、河合の母ちゃんがヘルパーなんだよ。お前んちのこと、ずっと気になってたって。今、家に行ってくれてる」

「え…勝手なことを!」

「勝手じゃねぇよ。顧問も担任も、クラスのみんなもずっと心配してたんだ。お前、何も言わねぇからさ。

でな、河合の母ちゃんが言うには――まず地域包括センターに相談するんだって。そしたらケアマネージャーって人がついて、介護認定を受けられる。

そしたら、いろんなサービスや支援が受けられるんだよ。保険料も払ってただろ?なら負担は少なくて済む」

畳みかける岡本君の言葉に、吉田君はうつむいたまま肩を震わせる。
岡本君はさらに言葉を重ねた。

「河合の母ちゃんが言ってた。お前んちのばあちゃん、今日はしっかりしてて『孫に負担をかけたくない、だんだん話せなくなるって、いろいろ忘れていくのが悲しい。忘れることすら忘れてしまう』って泣いてたって。…

それにな、じいちゃん、本当はお前のこと応援してたんだってよ。『あいつが世界を見たいなら、それもいい』って、お前がいないところでそう言ってたらしい」

「……」
吉田君の目に涙が浮かぶ。

「だからさ、もう一人で背負うなよ。俺も、河合も、顧問も、みんなで助ける。そういうもんだろ?友達って」

岡本君はにかっと笑い、元気に立ち上がる。
「ほら、そのコーヒー飲んで、行こうぜ!」

吉田君は勢いに押され、コーヒーを一気に飲んでむせる。
「トルココーヒーは、上澄みを少しずつ飲むんですよ」とマスターが柔らかく笑う。

吉田君は涙を拭き、力強く頷いた。
「コーヒーにもいろんな飲み方があるんですね。俺、全部見てきます」

二人は連れ立って店を出る。店を出るとき、吉田君が空にウインクするのを空は確かに見た。


ドアが閉まったあと、マスターは残ったカップを手に取り、静かに独り言をつぶやいた。
「コーヒー占いをしてみましょうか」

逆さにしたカップのソーサーに浮かんだ文字は――
友情・未来

その言葉を胸に、マスターはドアの方を優しく見つめていた。
店の奥では、空が小さく微笑んでいた。

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