先日は、マダニに感染していた猫を治療していた獣医師が、死亡したというニュースを見た記憶があります。
そして、今回は、マダニに感染した猫が発症後、数日で死亡したというニュースがありました。
とても他人事とは思えないので、どういう経緯でなったのかを調べてみました。
マダニってどんな虫?
マダニは、ダニの一種ですが、家庭内で見られるコナダニやチリダニ、動物の皮膚に穴をあけて居座るヒゼンダニと異なり、屋外の山野に生息している大型のダニです。
マダニは、一生のうちに1~3種類の宿主に寄生し、血を吸うことで大きくなっていきます。口の先は、「口下片」と呼ばれる独特な鋸のような構造になっているので、宿主の皮膚を切り裂くのも容易にできてしまうそうです。
また、皮膚の奥深くまで口下片を差し込むため、無理に引き抜こうとするとマダニの体の一部が皮膚の中に残ってしまいます。
そのマダニに吸血されると、マダニは、100倍くらいの大きさ(1㎝以上)になることもありますが、猫自身に痛みなどを感じることがないため、飼い主が猫を撫でてて「なんだか瘤のようなものがある」と初めてその存在に気づくことも多いようです。
しかし、マダニを無理やり取ろうと思っても、口の部分が残ってしまい、その部分が腫れてしまうだけでなく、マダニが媒介となって猫が病原体に感染することがあるので、本当に注意が必要になります。
マダニが媒介してかかる病気
マダニによって、猫や人がかかってしまう病気があります。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
2013年1月に感染が確認された割合新しい疾患。おそらく、フタトゲチマダニ、ヒゲナガマダニ、オオトゲチマダニ、キチマダニ、タカサゴキララマダニなどが媒介していると考えられています。
病原体は、「SFTSウィルス」で、発熱、消化器症状と言った症状が中心ですが、重症化すると、血小板が減少し、死に至ることもあります。
今回の猫ちゃんは、このSFTSに感染して亡くなってしまったそうです。
ライム病
シュルツェマダニなどが媒介となり、病原体は「ポレリア」です。初期症状は、倦怠感や頭痛、発熱、紅斑などインフルエンザに似た症状が起こり、神経や循環器、皮膚、毛、関節などさまざまな部位に発展していきます。
流行地域は、本州中部以北で特に北海道や長野に多いとされています。
Q熱病原体
リケッチアの一種「コクシエラバーネティー」が病原体になります。動物にはあまり症状は出ませんが、人に感染した場合、発熱や頭痛、筋肉痛といったインフルエンザの初期症状に似た状態になった後、肺炎、肝炎、心内膜炎などに発展することもあります。
猫ヘモバルトネラ症
この病原体に感染すると、元気がなくなり、貧血、体重減少、食欲不振などの症状が出ます。貧血が悪化すると猫が亡くなってしまうことも。また、他の症状として、ひどい皮膚炎を引き起こすこともあります。
日本紅斑熱
キチマダニ、フタトゲチマダニ、ヤマトマダニなどが媒介し、リケッチアの一種である「リケッチア・ジャポニカ」が病原体になります。2~8日の潜伏期間を経て、頭痛、発熱、倦怠感、発疹などを発症します。
バベシア症
原虫の一種の「バベシア」が病原体になります。このバベシア症は、「犬バベシア症」の症例が沖縄で見つかり「ギブソン犬バベシア症」が西日本で散見されています。
約2~4週間の潜伏期間を経て、溶結性貧血、倦怠感、食欲不振、発熱などの症状が現れます。
他にも、ダニ麻痺症や野兎病などもマダニが媒体となり猫や犬に感染することがあります。
マダニは、猫のどこに吸い付くの?
実は、マダニにはすごい能力があって、前脚にあるハラー器官を使って、獲物の体温を赤外線のように感知できるんです。
ちょうど、サーモグラフィーで猫を見ているようなものですね。そして、頭部や体の前面、前脚の上の方、太ももなど体温の高いところに食いついていくそうなので、猫の体をチェックするときは、この辺りを重点的に見てあげてくださいね。
マダニを見つけたら?
もし、飼い猫にマダニが見つかったら、放置せず、すぐに動物病院に行きましょう。
自分で取ろうとして、無理に引っ張ると口の部分だけが残り、猫の体の奥に入り込んでしまうことがあります。
海外の実験では、ピンセットで、猫の皮膚に近いところから引き抜く方法が一番、良かったようですが、マダニが分泌するよだれ(吸着セメント)までは、取り切れなかったそうです。
今回の猫ちゃんの場合は
SFTSに感染したのはまだ1歳の猫ちゃん。室内で飼われて、ちゃんとダニの予防薬も投与されていたのですが、4月下旬に屋外に脱走してしまったそうです。
その後、おウチに戻ってきたあと、耳に小さなダニが多数付着していたので、動物病院に行き、ダニを除去したのですが、5月9日には、40,9度の高熱を出し、食欲低下、嘔吐で再び、受診しました。
翌日には、黄疸も出たことから、SFTSを疑った獣医師が県に連絡して、猫ちゃんの血液検査をしたところ、陽性反応が出たそうです。
猫ちゃんは、隔離用のゲージで飼い主のおウチで看病されていましたが、残念ながら12日は亡くなりました。
茨城県では、獣医師会を通じて感染対策への注意を呼び掛ける通知を出しましたが、県内でのウイルス陽性は初めてだとしています。
また、飼い主や獣医師への感染は確認されていません。
獣医師が死亡した例も
三重県では、SFTSに感染していた猫ちゃんを治療していた獣医師が死亡したと発表がありました。亡くなった獣医師は、検査によってSFTS感染が確認された猫ちゃんの入院治療を担当していました。
おそらく、猫ちゃんは、SFTS の典型的な症状に対する対処療法や輸液管理などの集中ケアを行っていたと考えられます。
この獣医師は、治療を行った後、5月中旬ごろから呼吸困難、発熱、全身倦怠感などのSFTS 特有の症状が現れ始め、数日後に亡くなったそうです。
マダニは猫のせいではありません。
この時期になると、マダニに感染した猫ちゃんの話や農作業をしていた人がマダニに噛まれ死亡したというニュースを耳にします。
それだけを切り取ると、まるで「猫は危ない」と言っているように聞こえることもあります。
しかし、マダニは、猫にだけ付くわけではありません。山道を歩いているだけでもマダニに噛まれることだってあります。現に、SFTS の発症者は、50歳以上の中高年層が約8割を占め、農業従事者や山林作業者などの方がほとんどだそうです。
発症の季節も5月~8月と言われていましたが、温暖化の影響により、さらに伸びることが考えられます。
ニュースを見て、単純に「猫が悪い!」と思わないでください。
たまたま、猫がかかったことでニュースになるだけで、別のルートからマダニによって感染する例はたくさんあります。
これからの季節、マダニには注意して!

これから、マダニはさらに活動的になっていくかもしれません。
マダニに噛まれないようにするには、山道を歩くときは、長そで長ズボンを着用する、犬の散歩をするときは、草むらに入らないようにする、飼っている猫ちゃんは、絶対に外に出さないなど、自分で注意できることはたくさんあります!
今回の記事を読んで、亡くなった猫ちゃんの飼い主さんの気持ちを考えると、とても辛いです。
きっと、本当にできることをしたんだと思います。まだ1歳のかわいい盛りの猫ちゃん、脱走してやっと戻ってきたら、辛い闘病の末に虹の橋を渡ってしまうなんて…ご冥福をお祈りいたします。
お外の猫ちゃんも、そうやって亡くなっていく子もたくさんいるのかもしれません。
ただ、唯一良かったことは、今回は、獣医師さんと飼い主さんが発症しなかったこと。
とにかく、これからの季節は、ペットを飼っている人も飼っていない人も十分、注意してくださいね。
今日もお付き合いいただきありがとうございました。
ではでは。